<10万HIT御礼企画・6話の小話>※2006年3月30日、日記にて掲載分を加筆修正
――――その時、彼等は・・・(ウィルVSアーク)
「サギリってばやっぱり強いねぇ。王都警備隊隊長まで倒すなんてさ。しかもまだ余力を残しているみたいだ」
「あぁ、流石私のサギリだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰のサギリだよ、誰の」
部下の誰にも決して見せられないなほどに相好を崩したウィルフレッドを横目にしてアークライトは溜息を吐いた。
事ある毎に『私の』と強調するウィルフレッドを羨ましいと思う反面、無性に腹が立つ。
思わず後ろから殴ってやりたい気持ちに耐えてアークライトは再び溜息を吐くとバルコニーから闘技場を見下ろした。
その眼下には闘技場に背を向けて歩く紗霧が目に映る。
アークライトはその姿を見て改めて感心した。
遠く離れたこの場所から見ても、やはり紗霧の体格が未だ出来上がってない少年の身体だということが見て取れる。
にも関わらず、その内に秘めた力で次々と相手を倒していく姿は傍から見ていても非常に気持ちが良いものだった。
颯爽と歩いて行くそんな紗霧の姿に、アークライトの視線は自然と吸い寄せられる。
「うーん、グレイス隊の救世主凱旋ってとこかな」
誇張でも何でもない。
例え身体は小柄でも、グレイス隊の元へと戻る紗霧の姿は正に歴代英雄の凱旋を連想させるほど堂々としたものであった。
「ははは、グレイス隊の連中のはしゃぎようったら物凄いね。まぁ初勝利だし、解らないでもないけれ、ど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ゛」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほぅ」
一瞬にして周囲の気温が氷点下まで下がったのをアークライトは感じた。
ウィルフレッドの目がスッと殺気を帯びて細められる。
突然、言葉も無くウィルフレッドは静かに立ち上がると壁に向かって歩き出した。
「・・・・・へ?」
錯覚だろうか。
アークライトの眼にはウィルフレッドの通った路が凍った様に映る。慌てて袖で目をゴシゴシと擦り、何度も瞬いた。
その間にも、ウィルフレッドはゆったりとした足取りで一歩一歩と壁へと近づいて行く。
アークライトは未だウィルフレッドの行動を呆然と見守っているだけだったのだが、ハッと我を取り戻すとウィルフレッドが向かう先に素早く視線を走らせる。
するとその先にある壁には、ウィルフレッド愛用の剣が恭しく掲げられているではないか。
ウィルフレッドは躊躇なくその剣を手に取るとスラリと鞘から抜き放ち、何度も角度を変えて剣に刃こぼれが無いかを丹念に見やった。
「・・・・・・・ううううううううう、ウィルフレッド君。その剣で何をしようとしているのかな?」
「心配するな。少々煩わしき者をさっくりと切り捨てるのみだ」
「あ、そうなんだ。・・・・・・・・・・・・・・・って!!そんなこと許す筈がないだろう!!!」
爽やかな笑顔で危うく誤魔化されそうになったアークライトだが、剣を片手に紗霧達の元へと向かおうとするウィルフレッドの前に慌てて立ちはだかる。
「ウィル!!!!落ち着け、な?」
「私は十分冷静だが」
「どこがだよ!!!???その笑顔が物凄く恐い!!」
「・・・悪かったな」
「兎に角、どうでもいいからその剣を仕舞え!」
「なに、一仕事終えてこようというのだ。私は仕事熱心だろう」
「〜〜〜終わったら駄目なんだって!!あぁぁあああぁぁ〜〜もう!!」
アークライトは思わず頭を抱える。
本来ならばウィルフレッドを止める役回りはセオドアだ。
アークライトは何時でも悪巧みを提案するウィルフレッドに悪乗りして実行する役回りであった。
しかし今度ばかりはアークライトも悪乗りするどころかその行動を許す筈がない。
だがこの場にセオドアは居なかった。
と、なれば必然的にウィルフレッドを止める役割をアークライトが果さなければならないのである。
「退け、アーク」
「退くわけがないだろう!〜〜〜コラコラコラ!!俺を押しのけて行こうとするんじゃない!!」
「さっさと退かぬとお前も同様に切り捨てるぞ」
「・・・・・・・・・・・へぇ〜〜〜〜そんな事を言っちゃうんだ」
スッとアークライトの表情が消えた。
この場の気温が更に低下する。
ウィルフレッドから視線を逸らすことなくアークライトは流れるような動作で腰に帯びていた剣を抜き放つと、ウィルフレッドに向かって構えた。
「・・・・出来るもんならやってみるんだね」
静かに怒気を帯びたアークライトをウィルフレッドは目を細めて見る。
そしてアークライト同様にウィルフレッドは剣を構えると無言で対峙した。
二人の視線は決して逸らされることはない。
緊迫した空気が辺りを包む。
闘技場から見上げる位置にあるここバルコニー内でも、新たな闘いが幕を開けようとしていた。
update:2007/7/11